記事の要約
- インボイス制度は脱税防止が期待されているが、免税事業者は消費税や請求書を納めなくてもよい
- インボイス制度による消費税の値引き要求は、法律ではまだ規制されておらず、発注先から消費税分を差し引きされる可能性がある
- フリーランスや個人事業主にとっては納税額が増えてしまうため、制度導入に対し、反対意見の声が多く上がっている
インボイス制度って何が問題なの?
インボイス制度は、消費税の課税に重要な役割を果たしていますが、一方で事業者にとって納税額が増えてしまう、仕事がもらえなくなるなどの問題があることも事実です。
問題点を詳しく解説していきます。
問題1:職を失う可能性がある
インボイス制度は、取引先の消費税の納付状況を確認することができ、消費税の脱税防止につながることが期待されています。
ただし、一部の事業者にとっては、この制度によって問題が生じる場合があるかもしれません。
免税事業者は、消費税を納めなくてもよいという扱いを受けているため、インボイス制度においても、消費税が請求されないことがあります。
このため、免税事業者が納税義務のある事業者と取引を行った場合には、消費税の請求書が発行されず、消費税を納めていないかどうかを確認することができません。
そのため、免税事業者との取引においては、インボイス制度が上手く機能しないことがあります。
事業者が消費税を納めずに済む取引が増えると、消費税の脱税につながることが懸念されるでしょう。
インボイス制度は、課税事業者が発行する請求書が必要になります。
請求書は法律上では、「適格請求書」と呼ばれます。
仕入額控除の適用を受けたい事業者からすると、適格請求書を発行出来ない免税事業者との取引は利益にならないことから、仕事の契約を打ち切りにされることも考えられます。
問題2:経理事務が煩雑になる
インボイスや請求書の発行が多くなると、経理事務が煩雑になることがあります。
特に、取引先が多数存在する場合や、発行するインボイスの種類が多岐にわたるほど、管理が難しくなるでしょう。
- クラウド会計システムを導入する
- 経理代行業者の活用
- 発行・管理業務におけるプロセスの見直し
このような対策を取ることで、経理事務の負担を軽減し、業務の効率化を図ることができます。
問題3:消費税分を差し引かれる可能性がある
インボイス制度とは、取引先から請求書(インボイス)を受け取ることで、自分が支払う消費税額を確定することができます。
過去の消費税増税により「消費税の転嫁拒否」が横行しました。
現在は、取引先が消費税を上乗せして請求額を引き上げることは「消費税転嫁対策特別措置法」にて違法とされています。
この法律により、事業者は、取引先から受け取った請求書に基づいて、自身が負担する消費税額を申告することが求められています。
つまり、自分が支払う消費税額と取引先が請求する消費税額が一致するように、調整する必要があるということです。
インボイス制度とでは、取引先から受け取った請求書に基づいて消費税額を確定する点では共通していますが、目的や内容は異なります。
インボイス制度は、事業者が消費税を納税するための手続きを簡素化し、効率化するために導入された制度であり、一方、「消費税転嫁対策特別措置法」は、消費者を保護するために、事業者が消費税を不当に転嫁しないようにするための法律です。
あくまで「消費税値上げに対しての値引きを要求した場合」に適用されるため、インボイス制度導入に対する値引き要求は、規制の対象外です。
今後は、インボイス制度についても値引き要求を規制するかもしれませんが、現時点では、発注先から値引き要求される可能性があることを覚えておきましょう。
問題4:免税事業者はインボイスを発行できない
一般的に、免税事業者は消費税を含む請求書(インボイス)を発行する必要はありません。
インボイスには発行事業者の登録番号が必要であり、免税事業者は登録ができないため、インボイスを発行できません。
そのため、仕入れ先に免税事業者がいると、納税額が増えるため、年間の売上が1000万円以下の事業者である零細事業者に負担がかかることになるでしょう。
インボイス制度導入前にやっておくべき対策とは?
インボイス制度が導入される前に、事業者は準備をしておくことが望ましいです。免税事業者と課税事業者ができる具体的な対策を3つあげます。
対策1:適格請求書発行事業者への登録申請を出す
適格請求書発行事業者への登録申請の手順
- 適格請求書発行事業者の登録条件を確認する
適格請求書発行事業者になるための対象者
- 仕入額控除を受けたい事業者
- 「消費税課税事業者選択届出書」を提出していること
- 消費税法に違反した過去がある場合、執行を終了してあること
- 必要書類を用意する
適格請求書発行事業者への登録申請には、所定の書類が必要です。
代表的な書類
- マイナンバーもしくは通知カード
- 運転免許証などの身元確認書類
- 登録申請書
- 登録申請を行う
必要書類を揃えたら、登録申請を行います。
登録申請方法
- 税務署へ直前申請
- インボイス登録センターへ書面による郵送申請
- 電子申請
対策2:消費税課税事業者選択届出書を提出する
消費税を取り扱う事業者であれば、選択届出書を提出することをおすすめします。
「受け取った消費税額が、支払った消費税額より少ない」場合は、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、課税事業者となる方がお得になります。
消費税課税事業者選択届出を提出する手順
対象者
- 消費税の課税対策となる事業者
- 届出書を記入する
届出書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。必要事項を正確に記入し、署名捺印してください。
必要記述事項
- 事業者の名称、住所、電話番号などの基本情報
- 事業の種類、業種、役務などの詳細
- 消費税課税制度の適用期間の指定
- 消費税課税制度の適用に関する諸条件に同意する旨の記載
- 代表者の署名と印鑑
- 書類を提出する
届出書と必要書類を添付して、税務署に提出してください。
提出方法
- 郵送
- 窓口提出
- e-Tax
提出期限の詳細については、国税庁のホームページを参照してください。
対策3:働き方を変える
控除を受けられなくても仕事を依頼したい!と思ってもらえる人材であれば、免税事業者のままでも問題ありません。
しかし、適格請求書を要する事業者と取引しているのであれば、課税事業者になることを検討しなければならないでしょう。
フリーランスとして生きていくなら、インボイス制度導入前までの間、今のうちに他業者との差別化を図る必要があるでしょう。
インボイス制度は問題だけではない?
請求書等処理業務が効率化される
インボイス制度により、自動化ツールが活用されるようになることで、請求書等処理業務の作業時間を短縮し、作業ミスを軽減することができます。
手作業で行っていた業務を自動化することで、他の業務に集中することができるでしょう。
また処理業務が効率化されることで、顧客対応が向上することがあります。顧客からの問い合わせに迅速かつ正確に回答することができます。
新たな取引先の開拓チャンスにもなる
インボイス制度が始まると、買い手にとっては取引先の選定条件として「適格請求書発行事業者」かどうかがポイントになることがあります。
売り手の事業者は課税事業者となることで、新規取引先を獲得するチャンスとなることがあります。
まとめ
インボイス制度は、事業者にとって必要な、法律で定められた制度ですが、導入によりいくつかの問題が生じてしまうことが分かりました。
インボイスの発行や保存に対する義務化により、手続きの負担が増加し、コストアップにつながることが懸念されます。
また、取引相手の免税事業者からはインボイスが発行できないため、仕入れ時の消費税の一部が還付されないことにより、納税額が増加することもあります。
インボイスの導入はまもなくですが、まだ制度を知らない人も多いです。一方、インボイスに対して「零細事業者やフリーランスを苦しめる」と、中止や延期を求める声も出ています。